『プロローグ』
最近の世の中は、とても腐っていると思う。
ヒトは何故、今、存在するのだろう。
ヒトが地上に現れてから、大地は明らかに疲弊した。見違えるように。
アタシは俗に言う普通のヒトの類ではない。肉体は常人のそれだけど、精神は悠久の時を過ごした。もう、何年も、何百年も、何千年も、ともすると、この地の誕生のときより、この地を見続けてきた。故に、アタシと大地はもはや一心同体。
ヒトはたかだか数千年で、飛躍的な進化をとげた。それに伴って、この地も急激に変わった。その変化には目を見張るものがあったよ。
アタシは、今、ヒトに問いたい。
“人間よ。己は、生きていて、楽しいかい?”
一体何人のヒトが、この問いかけに自信を持って“Yes.”と答えられるのだろうか。
アタシはうんざりしている。
神は何だって、こんなめんどくさい、愚かなものを生み出してしまったのだろうか。
嗚呼…。大地が哭いている…。苦しい、と、もがいている…。助けを求めている…。
神よ。もう分かっただろう。
ヒトはやはり、この地上にいない方がいいのだ。
地上を汚すヒトという存在を、アタシは全面的に否定し、拒絶する。それ故に抹殺する。
愚かな人間どもよ。己が罪の償いに裁かれし時を待て。
大丈夫。アタシの目的は、この地を汚す元凶がなくなればよいだけだから。
この優しいアタシが、せめて苦しまずに逝けるよう、すぐに楽にしてあげるからね。
かといえど、アタシは今、生身の少女。
このままでは何もできずに、また精神の輪廻を繰り返す。
アタシがこの地の変化に気付いたのは、二、三代くらい前だった。悔しいことに、生まれ変わって、アタシが宿ることになった媒体はどれも身体が脆弱だった。行動に移す前に朽ちてしまった。
でも、今回は違う。
この、『鎌谷愛』という媒体は素晴らしいよ。ビジュアル的にもそれほど悪くはない。身体能力もそれほど悪くもない。脳にいたってはパーフェクトだ。
ヒトよ。アタシは宣言する。
紅い月が天高く満ちた時、己らの命、我が理想の糧とす。
それでもなお、其の無駄な天命を全うするつもりならば、せいぜい足掻くがよい。
アタシは己の願いを、己の力で叶える。
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